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 2016年の熊本地震で、熊本県南阿蘇村の阿蘇大橋付近での土砂崩れで次男を失った大和忍さん(57)は、夫の卓也さん(享年66)を昨年9月に病気で亡くした。14日、県庁の献花台では、長男とともにそっと手を合わせた。

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生前の大和卓也さんと妻忍さん。この年、亡くなった晃さんをしのんで、忍さんの兄本郷征美さんが植えたサクラが花をつけ始めた=2021年4月9日午前10時24分、熊本県南阿蘇村立野、城戸康秀撮影

 今年の追悼式には、隣に卓也さんがいない。緊張して迎えた朝、遺影に「一緒に行こうよ」と声をかけると、「なるようにしかならんたい」という返事が聞こえた気がした。何事にも全力を尽くした後に言う卓也さんの口癖だった。

 9年前の2016年4月16日未明。最大震度7の本震で土砂崩れが起き、阿蘇大橋(全長約200メートル、谷底からの高さ約80メートル)は崩落した。

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阿蘇大橋は土砂崩れで無くなっていた=2016年4月16日、熊本県南阿蘇村

 大学生で次男の晃(ひかる)さん=当時22=は、14日の前震で被災した熊本市の友人を見舞い、阿蘇市の自宅へ車で戻る途中だった。翌朝から、家族での田植え前のモミまきを手伝う予定だった。

 行政による捜索が半月で打ち切られた後、2人は、晃さんの車を捜して大きな岩が転がる谷底をはい回った。忍さんは、先を急ぐ卓也さんに遅れがちになり、岩の間に落ちる危険もあった。卓也さんには、目立つ色の帽子をかぶせられ、笛を持たせられたが、「ついて来るな」とは言われなかった。

 「この人についていけば大丈夫。必ず晃に会わせてくれる。そう信じていました」

 谷底に下りるのが難しい場所…

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